輝け! CAI! 第2回
猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)

勝沼 俊雄先生

企画勝沼 俊雄先生

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)アイキャッチ

「輝け! CAI!」は、アレルギー疾患療養指導士(CAI)の資格を活かして、全国さまざまな場所でイキイキと活躍するCAIの仲間たちを紹介するコンテンツです。第2回目は、東京都小平市の公立昭和病院で、食物アレルギーをもつ子と保護者に栄養食事指導を行っているCAI1期生の管理栄養士・猪瀬佳代子さんに登場していただきました。

 

負荷試験の結果と食事状況を反映した栄養食事指導

 

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)公立昭和病院

 2022年12月のある日、東京都アレルギー疾患専門病院(小児科領域)に指定されている公立昭和病院の小児科病棟――。11歳の男の子・Rくんが、食物経口負荷試験(以下、負荷試験)を受けるためお母さんに付き添われて日帰り入院をしていた。

 Rくんには幼少時から牛乳、卵、ピーナッツの食物アレルギーがある。普段は近医でフォローしており、約1年前に公立昭和病院で負荷試験を受け、この日は牛乳の負荷試験のために再受診した。これまで経口免疫療法を受けてきて、卵とピーナッツは除去解除が近いものの、牛乳アレルギーは続いている。

 負荷試験は午前9時すぎに始まった。牛乳0.2mlからスタートし、30分間隔で0.5ml、さらに1mlを負荷したが、アレルギー症状は現れない。良い兆候だ。

 午前11時、管理栄養士の猪瀬佳代子さんが病室へ向かった。本人とお母さんから、普段の朝・昼・夜の食事内容や摂取量を聞き取っていく。

「いつもの食事の状況を教えてくださいね。朝はパン? ごはん?」「食パン1枚くらいかな」「パンには何かつけて食べるの?」「そのまま」「そう、シンプルで美味しいよね。あとは?」「ベーコンとかサラダ、果物です」「ベーコンはどのくらいの量を食べますか?」「薄切り1枚くらい」「野菜は好き?」「はい」「じゃあ、好き嫌いはあまりないですか?」「そうですね」「それはいいですね」…………。

 こういった調子で、お昼の給食や夕飯などについても詳細な聞き取りが続く。その間も、Rくんの様子をさりげなく観察し、負荷による症状の出現がないかを注意深くチェックする。

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)負荷試験

 成長期の子どもの食物アレルギーへの対応で大切なのは、安全性を担保しながら原因食物を少量ずつ摂取して耐性獲得を目指すこととともに、食べられない食品で不足しがちな栄養素を代替食品でどう補っていくかだ。

 Rくんのお母さんがとくに心配していたのは、牛乳が飲めないことによるカルシウム不足だった。牛乳以外でカルシウムを多く含む食品には大豆製品や魚、乾物(切り干し大根など)、野菜(小松菜など)がある。さらに、骨の形成をサポートするビタミンD、ビタミンKの摂取も欠かせない。

 Rくんは幸い、豆乳が好きだという。納豆は苦手。好物はなんといっても焼肉やステーキ。魚も食べられる。こうした食事状況と嗜好を把握した上で、個々の患児に合ったきめ細かな栄養食事指導へとつなげていく。

「お食事も楽しめているようなので良かったです。では、これから必要栄養量を計算して、牛乳に代替できる食品やレシピを提案させてもらいます。少しお待ちくださいね」

 こう言い置いて猪瀬さんは急ぎ足で栄養科の一室へ戻り、休む間もなく自身のパソコンを開くと、一心不乱に先ほど聞き取った情報の入力を始めた。

 

十分な栄養素を確保するためのレシピを提案

 猪瀬さんは管理栄養士になって18年になる。これまでのキャリアは主に病院勤務で、同院は3つめの職場。現在、小児科で食物アレルギー患者さんのサポートを受け持つとともに、低栄養のがん患者さんの栄養管理にも携わっている。

 小児科での主な仕事は、この日のように負荷試験の結果や聞き取りに基づいた栄養食事指導だ。同院での負荷試験実施件数は年間100件前後。単純計算で3日に1回のペースで負荷試験後の栄養食事指導に入ることになる。

 猪瀬さんは、小児アレルギーエデュケーター(PAE)の資格も持ち、2021年にCAIの資格を取得した。そのきっかけの一つは、娘さんに卵アレルギーやアトピー性皮膚炎、花粉症といったアレルギー疾患があることだった。

「同じアレルギーの子を持つ親として、保護者の方のお気持ちはとてもよくわかります。患者さんや保護者の方の日常生活に寄り添いたいとの思いもあり、アレルギーについて勉強を始め資格取得に至りました」

 パソコン作業を手早く終えると、作成した10枚以上の資料をプリンタで打ち出す。聴取した食事内容から栄養摂取量を算出して必要栄養量と比較した「栄養評価シート」【図】、Rくんの「成長曲線グラフ」、「カルシウム等を含む食品の紹介」、Rくんの好みを考慮したお勧め料理の「レシピ」、同院で使用しているアレルギー用のメニューにアレンジを加えた詳細な「献立表」がものの15分ほどで完成した。

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)栄養食事指導

 12時、再びRくんの待つ病棟を訪れ、作成した資料を用いて結果の説明を行う。

「今日、お食事内容を聞かせていただいて栄養の計算をしてきました。実際に食べている量と必要栄養量を比べると、エネルギーは95%くらい摂れているので栄養は足りています。お母様が気にされているカルシウムですが、必要な600mgに対して豆乳を入れて530mg摂れているので大丈夫です。栄養バランスも問題ありませんし、成長曲線を見ても身長・体重は標準で、しっかり成長していると思います」

 さらに、牛乳の代替食品を使ったお勧めレシピを提案するとともに、緊急時に周囲へ食物アレルギーであることを伝えるためのメッセージツール「食物アレルギーサインプレート」を手渡して、この日の負荷試験・栄養食事指導は終了となった。

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)悩みに寄り添う

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)栄養評価

食物アレルギーの子を持つ親の悩みに寄り添う

 食物アレルギーへの対応は乳幼児期では保護者が中心となり、とくに母親の心理的負担は大きい。日々、他の家族とは違った除去食の献立を考えるストレス。栄養不足になっていないかという懸念。除去をいつまで続けなければならないのかという不安。そんな悩みに寄り添うことも栄養管理を担うCAIの大切な役割だ。

 「一生懸命なお母さんが多く、皮膚のブツブツなどの症状に過敏になっている方もいらっしゃいます。何らかの症状があるとそれを食物アレルギーと結びつけて考えてしまいがちですが、必ずしも食物アレルギーによるものではない場合も少なくありません。診断は医師がしっかり行うので、除去は必要最小限にとどめ、食べられる安全な範囲まではしっかり食べてもらうようお伝えします」

 一方、学童期以降になると徐々に本人によるマネジメントへと主体が移っていく。

「ひとつの節目は小学校高学年から中学生くらいです。学校の課外活動や宿泊行事、友人との外食なども増えてくるので、親御さんの心配は尽きません」

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)レシピを提案

 親から離れて過ごす時間が増えると、加工食品の誤食にも注意が必要になる。まだ病歴の浅い患児や保護者には、加工食品の食品表示は牛乳や卵、小麦などが含まれていても別の名称で表示されることもあるし、7品目の特定原材料以外のアレルゲン表示は義務づけられてはいないことなど、加工食品の表示ルールも詳しく説明しておく。

「しっかり自己管理できている子が多いと感じています」と猪瀬さん。Rくんも、すでに自分で加工食品のアレルゲン表示をチェックする習慣がついているという。

 食物アレルギーの治療を苦労して続けてきた子や保護者から、「○○を美味しく食べられるようになりました」と聞くと、心から嬉しく思う。CAIとして仕事をすることの手応えを感じるのはそんなときだ。

チーム医療に積極関与できるのがCAIの魅力

 現在、同院には9人のCAIが在籍している。内訳は、看護師6人、薬剤師1人、管理栄養士2人。小児科・大場邦弘医師が中心となり、地域のアレルギー診療についての啓発活動をチームで担っていく目的で資格取得を奨励しているという。

猪瀬さんも、CAIの魅力について「チーム医療に積極的に関わることができる」という点を挙げる。

「顔が見える関係の中で多職種が専門的な知識を共有することで、院内はもちろん、地域のアレルギー疾患の患者さんを適切にサポートしていければと考えています」

 同院では地域貢献活動として、構成7市の子どもを預かるすべての施設の職員を対象に、『コード・ブルー/アナフィラキシー小児救急シミュレーション』講習会や『食物アレルギーマネジメントセミナー』を定期的に開催している。ここでも看護師、薬剤師、管理栄養士がそれぞれの専門分野を分担してチーム医療を展開している。

「CAIとしての知識を学んだことで、アレルギー疾患についての幅広く新しい情報を自分の中に落とし込め、患者さんや医師、他のコメディカルとも自信を持って話ができるようになりました」

 猪瀬さんは現在、病院給食での食物アレルギーの事故防止対策にも関与している。資格取得後、病院の食物アレルギー食対応の見直しを図った。食物アレルギーのある入院患者さんには、入院前に栄養士が面談をして食事の対応を決めている。

 また、子どもの食物アレルギーへの対応では、保育所や学校との連携も欠かせない。これまで学校関係者(栄養教諭、調理師、養護教諭、教諭など)や保育関係者(施設長、保育士、栄養士、調理師、看護師など)を対象とした地域でのセミナーも行ってきた。

 食物アレルギーの患者数が年々増加するなか、CAI有資格者の活躍の場は今後ますます広がっていくだろう。

 最後に、CAIを目指す全国の仲間たちにメッセージを寄せてもらった。

「多職種が共通言語を持ってチームの一員として医療に取り組むことができる。それが、CAI資格を取得していちばん良かったと思っている点です。ぜひいろいろな職種の方にチャレンジしていただいて、アレルギー診療のコラボレーションがより活発になることを願っています」

輝け!CAI!第2回猪瀬佳代子さん(管理栄養士、CAI)チームの一員

公立昭和病院の許可掲載
ライター:嶋 康晃
フォトグラファー:Cosufi

企画勝沼 俊雄先生

保有資格

  • 日本小児科学会認定専門医
  • 日本アレルギー学会認定専門医・指導医

現職

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授