アニサキスアレルギー

勝沼 俊雄先生

監修者・執筆者勝沼 俊雄先生

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授

はじめに

 アニサキスは、クジラやイルカなど海に住む哺乳動物の寄生虫の一種です。それがなぜ人間に害を及ぼすのでしょうか?

 図はアニサキスのライフサイクルを表しています(図1)。


図1 アニサキス生活史
 
 
 アニサキスの最終宿主(アニサキスが最終的に寄生する生物)であるクジラやイルカなどから、糞としてアニサキスの虫卵が排出されます。虫卵は海水の中で幼虫となり、第1中間宿主であるオキアミなどに寄生します。次に第2中間宿主である魚(サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケなど)や甲殻類、軟体類(イカなど)といった魚介類に寄生します。そしてそれらの魚やイカなどを、最終宿主であるクジラなどが捕食するというライフサイクルを繰り返します。人間が魚や甲殻類を食べて口にする可能性があるアニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで白い色をしています。

 

アニサキス症

 アニサキス症は、胃アニサキス症と腸アニサキス症に分類されます。

 一般にアニサキス症と言えば、その90%以上を占めると考えられている胃アニサキス症を指しますが、近年は腸アニサキス症の増加が問題となっています。

 胃アニサキス症では、魚介類の生食後数時間で、激しい腹痛(特に胃のあたり)、悪心(おしん:吐きそうな気分不快)、嘔吐が現れます。腸アニサキス症では胃アニサキス症と同様の症状を呈しますが、生食後2日程度と遅れて症状の現れることが特徴といえます。

 

アニサキスアレルギー

 アニサキス症は寄生虫であるの感染症ですが、アニサキスアレルギーは「アレルギー」です。

 つまりアニサキスに感染(アニサキス症)した後、人間の体はアニサキス虫体のタンパク成分(抗原)に対してアレルギー反応を起こし、IgE(アイジーイー:アレルギー反応を引き起こす抗体)が作り出されます。この状態(感作(かんさ)といいます)でアニサキスに感染した魚やイカなどを食べてしまうと、じんま疹(CAIマガジン じんま疹記事参照)やアナフィラキシー(CAIマガジン アナフィラキシー記事参照)といった即時型アレルギー反応を引き起こしてしまうのです。そして厄介なことに、アニサキスの抗原蛋白は加熱しても壊れにくいので、アニサキスのアレルギー反応は加熱した魚介類を食べても起きてしまうのです1)

 アニサキスアレルギーの診断は血液検査(アニサキス抗原に対するIgEを測定します)などによって行われます。自分で「魚アレルギー」と思い込んでいる方の中には、実はアニサキスアレルギーであることが少なくありません。その場合、魚抗原に対する血液検査結果が陰性になってしまい、何のアレルギーなのか曖昧なままで推移することになります。魚介類を食べてアレルギー症状の出る方は、医師とともに「アニサキスアレルギー」を疑ってみることが大切です。

 

予防策2)

 アニサキス症、アニサキスアレルギーの予防策としては、アニサキスに感染した魚介類を食べないことです。

 アニサキスの寄生が多い魚介類を以下に記します。注意してください!

サバ、サンマ、アジ、イワシ、ヒラメ、サケ、カツオ、イカ等の海産魚介類の刺身

冷凍処理をしていないシメサバなどの加工品

 

 アニサキス症への予防策として、十分に冷凍(-20℃で24時間以上または-18℃で48時間以上)された生鮮魚介類ではアニサキス幼虫は死んでいます。アイヌの食文化である「ルイベ」は古の知恵の結晶だったのですね。

 加熱をする場合、60℃(中心温度)、1分以上の加熱でアニサキス幼虫は死にます。

 最近は、シメサバ(冷凍処理されていないもの)によるアニサキス症が多く報告されているようです。シメサバを作る場合は、できるだけ早く内臓や内臓周りの筋肉を除去することともに冷凍をすることで、アニサキス症に感染するリスクを下げることができます。

 最後に、酢や塩、しょうゆ、ワサビなどの調味料で、アニサキス幼虫は死にません。迷信に騙されないようにしてください!

 

出典

1)Moneo I, Caballero ML, Gomez F, Ortega E, Alonso MJ. Isolation and characterization of a major allergen from the fish parasite Anisakis simplex. J. Allergy Clin. Immunol 2000; 106: 177-182.

 

2)農林水産省HP:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/anisakis.html

監修者・執筆者勝沼 俊雄先生

保有資格

  • 日本小児科学会認定専門医
  • 日本アレルギー学会認定専門医・指導医

現職

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授