2023/12/13

輝けCAI

輝け! CAI! 第4回
神山めぐみさん(薬局薬剤師、CAI)

勝沼 俊雄先生

企画勝沼 俊雄先生

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授

 「輝け! CAI!」は、アレルギー疾患療養指導士(CAI)の資格を活かして、全国さまざまな場所でイキイキと活躍するCAIの仲間たちを紹介するコンテンツです。第4回目は、埼玉県春日部市の「さくら薬局春日部藤塚店」の管理薬剤師として、アレルギー疾患をもつ患者さんへの服薬指導や地域の健康サポートなどに取り組むCAI第1期生の神山めぐみさんに登場していただきました。

 

吸入薬指導ときめ細かなアレルギーの指導

 「さくら薬局春日部藤塚店」は、小児科・アレルギー科診療を行う「おかだこどもの森クリニック」に隣接する保険薬局だ。同クリニックが発行する処方箋の7割近くを応需している。

 この日は、気管支喘息の治療でクリニックを定期受診したTくん(16歳)が、その足で同薬局を訪れていた。

 Tくんは幼少の頃に気管支喘息と診断され、長く治療を続けていたが、年3回ほどの入院を繰り返していた。14歳のとき、中学校の養護教諭の勧めで「おかだこどもの森クリニック」を受診。以来、喘息は良好にコントロールされており、毎日のように出ていた発作も、いまでは風邪を引いたときに出る程度に。

高校では陸上部に入部し、短距離で大会に出場できるまでになった。いずれは中・長距離にも挑戦したいと考えているという。

 現在、デュピクセントの皮下注射を受けるため月2回クリニックに通院しており、帰りに神山めぐみさんの服薬指導を受けている。

 神山さんは、長期管理薬(コントローラー)や発作治療薬(リリーバー)の指導や悪化因子の対策はもちろん、気管支のリモデリングなど喘息の病態についても噛み砕いて説明しながら、「なぜ薬物治療を続ける必要があるのか?」について時間をかけて丁寧に説明していく。

 診療報酬加算のある吸入薬指導は別として、こうしたきめ細かなアレルギーの指導を受けることのできる調剤薬局はなかなか市中にはない。

 Tくんは「説明がとてもわかりやすく、『こういう時はこうするように』と状況に応じた薬の使い方や対応を詳しく教えてもらえるのでとても助かっています」と神山さんに全幅の信頼を寄せている。

 

薬局薬剤師として昼夜を問わず活躍

 神山さんはかつて、大学病院の小児科で病棟薬剤師として約25年間勤務していた。以来、小児のアレルギー疾患が専門。このキャリアを通じて培われた知識と経験が、アレルギー疾患患者さんへのきめ細かな指導のバックボーンになっている。

 神山さんが勤めるさくら薬局グループは全国に900店舗以上を展開する大手保険薬局チェーン。ITを活用した先進的な取り組みはよく知られる。

 そのひとつが春日部藤塚店でも導入しているスマートフォンの公式ヘルスケアアプリ「健康お薬手帳」だ。紙のお薬手帳の情報をアプリでまとめて管理できるほか、病院・クリニックで処方箋を受け取ったらスマホで写真を撮って薬局に送信すれば調剤がスタートするので、患者さんの待ち時間が大幅に短縮できる。ただし、薬を受け取る際は処方箋の原本が必要になる。

 春日部藤塚店のアプリ登録数は約2,700件と、さくら薬局グループのなかでトップクラスだという。

 なお、さくら薬局グループでは、スマホなどのビデオチャット機能を使って離れたところにいる薬剤師が服薬指導を行う「オンライン服薬指導」や、処方箋をデジタルデータ化して医療機関とオンラインでやり取りする「電子処方箋」の導入も進めている。

 神山さんは厚生労働省が推進する「かかりつけ薬剤師」としても活躍している。

 かかりつけ薬剤師は、1人の薬剤師が1人の患者さんの服薬状況を1か所の薬局でまとめて管理する機能だ。休日や夜間など薬局が開いていない時間にも、患者さんから電話で薬の使い方や副作用などの相談に応じる。

 神山さんがかかりつけ薬剤師として同意を得た患者さんや保護者の数はなんと約5,700人に上る。この数も、全国のさくら薬局グループでトップクラスだ。

 かかりつけ薬剤師指導料の算定要件のひとつに「24時間相談に応じる体制」があるが、神山さんは制度にかかわりなく以前から24時間対応を行ってきた。営業時間外には常に相談用のスマホを携帯し、いつでも電話がつながるようになっている。

 少なくとも毎日1件以上は営業時間外の電話相談がある。喘息発作が起きたと夜中に緊急で電話してくるケースもあれば、深夜まで長時間お母さんの悩みに耳を傾けることもあるという。

 地域活動にも熱心に取り組んでいる。近隣の小中学校の学校薬剤師を務め、地域でのエピペン講演会などに出向き、小児科夜間救急事業にも協力して月に2回ほど輪番制で勤務している。

 まさに仕事漬けの毎日だ。ゆっくり休息する時間はあるのだろうか? と余計な心配をしたくなってしまう。

 だが、神山さんは「苦痛に感じたことはありません。アレルギー疾患の患者さんや保護者をサポートすることがライフワークのようなものですから」と事もなげに笑う。

 

治療継続のモチベーションを高める指導が重要

 2015年、神山さんは小児アレルギーエデュケーター(PAE)を、さらに2021年にCAIの資格を取得した。

「最近は成人のアレルギー疾患患者さんも増えています。CAIPAE両方の資格をもつコメディカルスタッフも少なくありませんが、CAIは小児だけでなく成人もカバーしているので、これからアレルギーの専門資格を取ろうという人にはお勧めです。私の場合も、当薬局に成人の喘息患者さんもいらっしゃいますし、CAIの認定資格制度が始まることを知ってすぐに取得しようと思いました」と神山さん。

 薬局薬剤師がアレルギー疾患全般の指導を専門とするCAIであることは、患者さんにとってとても心強い。病院やクリニックの受診よりも、地域の薬局は日常的に利用することが多いからだ。

 「保険薬局の薬剤師がCAIの資格を取ることで、アレルギーの専門的かつ幅広い質問に答えることができるというメリットがあります。医師には聞きにくい、あるいは聞き忘れた質問も受けることができますし、アレルギーに関しては患者さんや保護者に寄り添うことができると考えています」

 喘息をはじめとするアレルギー疾患は長期にわたる管理が必要になる。治療を継続するためには患児本人はもちろん、不安や悩みを抱える保護者への指導やメンタルケアも欠かせない。

 そのためには、「患者さんや保護者を褒めることが大切」と神山さん。折に触れて、「頑張っていますね」と言葉をかける。見えない努力を認めてもらい、思わず涙ぐむ母親も少なくないという。

 神山さんは「アレルギー疾患の指導でいちばん重要なことは、患者さんや保護者に薬物治療を励行するモチベーションを維持してもらうことです」と強調する。

 病状が悪化すると必死で治療に向き合うものの、少し良くなると喉元過ぎればでやめてしまうという人が少なくない。

「喘息は、発作という火事が治まっても、まだボヤが残っています。そこで治療をやめてしまうと、また大火事が起こってしまう。ですから、薬物治療を継続してもらえるようなアドバイスをできるかどうかがとても大事になります。悪くなってから治療に来るのではなく、悪くならないようにするにはどうしたらいいかを説明して考えてもらう。これはアトピー性皮膚炎の炎症も同じです」

「おかだこどもの森クリニック」では喘息患者さんに定期的に呼吸機能検査を行っているが、クリニックでの医師の指導に加えて、神山さんは服薬指導のなかでもNO(一酸化窒素)など数値の意味を説明することもある。客観的な数字で示すことで、治療意欲の向上につながるという。

 

CAIという得意分野を手に入れてほしい

「多くのCAIが認定資格を得て活躍するようになれば、いずれ正当な診療報酬が認められ、CAIの存在価値はさらに高まっていくでしょう」と神山さんはいう。

 CAIの資格を取得しようという薬剤師はまだ少数だ。薬局薬剤師のCAIはとくに少ない。ひとつの理由として、アレルギー専門医のもとで研修・診療にかかわる薬剤師が少ないことがある。

 神山さんはそうした状況が変わってほしいと願っている。

「医療に従事している以上、患者さんの役に立ちたいと願うのは当然のことです。CAIとして学んだアレルギーの幅広い知識を伝えることで、患者さんが前向きになってくれればこんなに嬉しいことはありません。私は、薬剤師にももっとアレルギー疾患に興味を持ってほしいと思っています。もともとの専門に加えてCAIという得意分野を手に入れることで、メディカルスタッフとしての大きな成長につながるはずです。CAIの認定制度はスタートしてまだ3年です。これから歴史を重ねるなかで、地域での健康サポートなどいろいろな方向へ発展していくことを大いに期待しています」

「さくら薬局春日部藤塚店」の待合ロビーの壁には、いちばん目立つ場所に神山さんのCAI資格の認定証が掲げられている。こうした意義のあるアレルギー専門の認定資格があることを患者さんにもアピールし、CAIという存在を広く知ってもらいたいからだという。

さくら薬局春日部藤塚店の許可掲載
ライター:嶋 康晃
フォトグラファー:Cosufi

企画勝沼 俊雄先生

保有資格

  • 日本小児科学会認定専門医
  • 日本アレルギー学会認定専門医・指導医

現職

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授