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輝け! CAI! 第3回深谷亜矢さん(看護師、CAI) - CAI認定機構

2023/10/2

輝けCAI

輝け! CAI! 第3回
深谷亜矢さん(看護師、CAI)

 「輝け! CAI!」は、アレルギー疾患療養指導士(CAI)の資格を活かして、全国さまざまな場所でイキイキと活躍するCAIの仲間たちを紹介するコンテンツです。第3回目は、栃木県真岡市の芳賀赤十字病院小児科で「アレルギー指導外来」や地域の小中学校の教職員を対象とした「エピペン®️講習会」などを主導するCAI第1期生の看護師·深谷亜矢さんに登場していただきました。

 

 20238月某日、昼間の猛暑もやや和らいできた夕方5時。芳賀赤十字病院小児科外来の待合ロビーには「アレルギーチーム」のメンバーが集結していた。

 アレルギーチームはアレルギー専門医2名、CAI資格を持つ看護師8名と栄養士7名から構成されており、毎年、地域の小学校や中学校などに出向き、主に教職員を対象にした「エピペン講習会」を実施している。

講習会の開催時期は、教職員が時間を取りやすいことから春休みと夏休みに希望が集中する。今年は医師ほか6名のメンバーが分担して、依頼のあった8つの小中学校を回った。

 この日、行われていたのはその講習会の振り返りミーティングだった。反省点や講習会へのアンケート調査結果、次回に向けた改善点などについて活発に意見が交換された。

お揃いの青のTシャツがチームの一体感を高めている。その輪の中心で、進行役としてミーティングをリードしていたのが深谷亜矢さんだった。

 

アレルギー指導外来の立ち上げメンバーに

 深谷さんは2016年に小児アレルギーエデュケーター(PAE)、さらに2021年にCAIの認定資格を取得した。

 現在は小児科外来を中心に勤務しており、主にアレルギー専門医による診察のある水曜と木曜に「アレルギー指導外来」を他の看護師と分担して行っている。

 この日は、アトピー性皮膚炎で通院している小学3年生のRくんがお母さんに付き添われて受診し、深谷さんがスキンケア指導を担当した。

 

 

 アトピー性皮膚炎や喘息など小児アレルギーは長期的な治療が必要で、単に薬を処方しただけでは十分な症状コントロールは得られない。薬の効果を大きく左右するのはアドヒアランスであり、正しい方法でケアを行うことだ。

 いまはケアの主体はお母さんだが、いずれはセルフケアを行う時期に移行していく。そのときを見すえて、深谷さんはRくん本人に向けて、FTU(フィンガーチップユニット)などスキンケアの具体的な方法をアドバイスしていく。

 

 

「人差し指のここまでチューブから出したのが手のひら2枚分なのね。そうすると、お顔全体に塗るのにどのくらい必要かな?」

「このくらい?」

「そう、指1本と半分くらいの量で、お顔につけるにはちょうどいいよね。覚えた?」

「うん」

「いまはお母さんにやってもらっているけど、もうお兄ちゃんだから今日から自分でやってみようか。できる?」

「うん。じゃ、今日はボクここにお泊まりして、お風呂入ってからやる!」

「う~ん、Rくんは元気だからお泊まりはできないんだけどね」

 Rくんのおちゃめな一言で、その場に笑いが弾けた。

 

薬を処方するだけではなく、具体的なアドバイスを

 かつて、深谷さんはこの「アレルギー指導外来」の立ち上げにかかわった。

それまでアレルギー指導に看護師は関与していなかった。深谷さんはひそかに「薬を処方するだけではなく、具体的なアドバイスをすれば患者さんはもっと良くなるのに」と思っていたという。そこで、医師に自ら「スキンケア指導をやらせてもらっていいですか?」と申し出て、少しずつアレルギー指導の現場に入りこんでいった。

 

 

 その後、PAE資格を取り、医師からの指導依頼が増えてきて、アレルギー指導外来の開設に至る。さらに、アレルギー専門医でもある菊池豊小児科主任部長の勧めもあって、CAI資格を取得する看護師と栄養士が増えていった。

 アレルギー指導外来では、アトピー性皮膚炎のスキンケア指導などのほか、喘息患者には吸入指導を行ったり、食物アレルギーで食物経口負荷試験を受ける患者にはその説明や栄養士と連携して負荷食材の調理法などを検討する。

 さらに、食物アレルギーでエピペンが処方された患児本人と保護者には、エピペンについて指導するとともに、練習用トレーナーを使ったトレーニングも行っている。

 

「エピペンは迷ったら打ってください!」

 

 CAIとしての役割を果たせる場を模索していた深谷さんがたどり着いた活動のひとつが「エピペン講習会」だった。

菊池主任部長と、同じくアレルギー専門医の齋藤真里小児科部長、深谷さんの3人で地域の幼稚園や保育所、小中学校を回ってエピペンの指導を行っていたが、需要が高まってきたため3人では手が回らなくなった。

 そこで、CAI資格を持つ他の看護師と栄養士にメンバーとして加わってもらうことになり、本格的にエピペン講習会がスタートした。それが約2年前のことだ。

 講習会は真岡市の教育委員会から各小中学校に希望を募り、依頼があった施設に出張して行っている。幼稚園や保育所などは希望する施設から病院の総務課に直接申し込んでもらうことになっている。

 対象は教職員や保育士などだが、小学生の患児の保護者が参加することもあるという。

 講習会は約1時間。医師、看護師による講義とロールプレイから構成されている。

 ロールプレイでは児童生徒がアナフィアラキシーを起こしたという模擬場面を設定し、参加者である教職員に特定の役割を演じてもらい、その際の対応を習得していく。それぞれの役割演技のための「患児」「発見者」「先生1」「先生2」「先生3」「先生4」「リーダー」「記録」といった名札を用意しておき、その裏には緊急時にそれぞれがどう動けばよいかが具体的に記載されている。

 

 

 たとえば、児童がアナフィラキシーを起こしたと発見者から報告を受けた「先生1」の対応は次のように書かれている。

〈先生2に対して指示する。「緊急時対応表、内服薬、エピペンを持ってきてください」「さらに3人の先生に来てもらってください」。教室に移動し、担任から状況を聞き取る。リーダーを誰にするか決定する〉

 今年の講習会では、すべての施設で同じ場面を設定した共通の資料を使って、院内で何度もシミュレーションを重ねた上でロールプレイに臨んだ。

 緊急時にエピペン注射の可否を判断して実際に打つのは、医療者ではない教職員にとっては荷が重い。だからこそ研修が必要なのだ。『食物アレルギー診療ガイドライン2021』にも事前の研修の重要性が強調されている。

 

 

 いざというときに確実にエピペンを注射できるようになるには、練習用トレーナーを使ったトレーニングを継続することも大切だ。打ち方は、まず青色の安全キャップを外し、エピペンを太ももの前外側に垂直に当て、オレンジ色のニードル(針)カバーの先端を「カチッ」と音がするまで強く押し付けて数秒間待つ。

 

 

「トレーナーよりも実物のエピペンの方がニードルカバーを押し付けたときの手応えが強いことや、アナフィラキシーを起こしている子は暴れるので投与部位をしっかり押さえること、逆さまに持って誤って自分の親指に針を刺してしまわないよう確認することなど、注意すべき点をわかりやすく伝えるように心がけています」

 それでもやはり練習と本番には大きな違いがある。緊急時には周囲もパニックになりがちだ。実際に子どもが学校でアナフィラキシーを起こした場合、多くの先生は打つのをためらってしまう。しかし、アナフィラキシーが進んでしまうケースでは、発症からいかに速やかに打てるかが生死を分けることが知られている。そして、学校現場で子どもの生命を救えるのは周りにいる教職員しかいない。

 深谷さんは「重要なのは『エピペンは迷ったら打ってください』と繰り返し伝えること」だと強調する。

 講習会では、アナフィラキシー発現時に誰もが同じように対応できるよう、『食物アレルギー緊急時対応マニュアル』(独立行政法人環境再生保全機構)の「症状チェックシート」を使用している。さらに、栃木県教育委員会では『学校におけるアレルギー疾患対策マニュアル』を作成しており、これに沿って患者個別の緊急時対応についてフローチャートを作成するなど積極的な取り組みを行う学校も増えつつあるという。

 一方、食物依存性運動誘発アナフィラキシーも増えていて、エピペンを持っていない子どももいるが、エピペンは処方されている本人にしか使えないので対応に困るケースもある。まだまだ課題は多い。

 

CAI仲間が増えてモチベーションが高まった

 

 今年からエピペン講習会には栄養士も参加することになった。さらに、2023年のCAI認定試験で看護師2名が合格し、アレルギーチームに新たな仲間が増えた。来年はエピペン講習会のメンバーにも加わる予定だという。

 振り返りミーティングでは〈多職種でかかわることは、それぞれの専門分野以外の部分を互いにカバーし合えるので心強かった〉〈シミュレーションを行ったことで本番への不安が軽減された〉〈シミュレーションで「質疑応答でよく出る内容」を確認できていたため、本番で焦らず回答することができた〉といった感想が寄せられた。

 

 

 また、講習会の参加者にとって最も関心があるのは、ロールプレイなど実地の訓練であることも明らかになった。深谷さんは「今後はCAI自身にも、レベルアップのために実技のトレーニングを積む機会が増えればいいと思います」という。

 同院でのCAIの活動は、地域のアレルギー疾患対策を大きく前進させている。深谷さんはそこに確実な手応えを感じているようだ。

「当院では一気にCAIの有資格者が増え、同じ方向を目指すチームのメンバーとして活動できることをとても嬉しく思いますし、仕事に対するモチベーションも高まりました。仲間がいるってやっぱりいいなあ、とつくづく感じています。アレルギー診療の均てん化という意味でも、全国にCAIがたくさん増えることを大いに期待しています」

 

 

Message

三橋明美看護部長

 

 栃木県の二次医療圏である県東医療圏の中で、小児科単科病棟をもつ医療機関は当院のみです。そのため、地域の小児医療に貢献することが私たちの重要な使命になっています。教育委員会や保育所などとの繋がりも強く、アレルギー疾患で入院が必要なお子さんのケアや集団指導などについては、地域の医療機関とも連携をとりながら当院が中心となって引き受けているという状況です。

 小児科のCAIの資格を持つ看護師は、それぞれ外来·病棟での通常業務に従事しながら、アレルギーチームのメンバーとしても活躍しています。看護部全体として、アレルギー領域に限らず、さまざまな専門·認定資格を取得することを奨励しており、看護師のキャリアアップを支援しています。

 小児のアレルギー指導は当初は外来での取り組みが中心でしたが、徐々に学校側との協力関係がとれるようになり、CAIの有資格者が増えたことともあいまって地域でのエピペン講習会がスタートしました。

 いま食物アレルギーはじめ小児のアレルギーはどんどん増えており、地域の方々に貢献するという当院の理念を体現する存在としてCAIには大きな期待を持っています。二次医療圏の医療を担う病院の医療職はどんどん地域に出向いて、患者さんや保護者、学校の先生などとかかわりながら医療を提供していくことが必要だと考えます。

アレルギーという専門領域に特化してキャリアを積んでいくことは、看護師としての自信にもつながるでしょう。ぜひ活動の場をどんどん広げていってほしいと願っています。

 

芳賀赤十字病院の許可掲載
ライター:嶋 康晃
フォトグラファー:Cosufi

企画勝沼 俊雄先生

保有資格

  • 日本小児科学会認定専門医
  • 日本アレルギー学会認定専門医・指導医

現職

東京慈恵会医科大学附属
第三病院小児科 教授

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