花粉症の治療にはどんなものがあるか?
アレルギー性鼻炎・花粉症に治療においては鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改定第9版)(以下ガイドライン)が最も参考になります。
アレルギー性鼻炎は原因になるアレルゲンによって通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に分類されます。通年性はダニやペット、カビなどによって症状が起こり、季節性アレルギー性鼻炎、すなわち花粉症は原因となる花粉が飛散するシーズンに症状が出現します。
本邦では「花粉症」といえば、ほとんどがスギ花粉症のことを指しますが、それ以外にも初夏(6月から7月)のイネ科花粉症、秋(9月から10月)のブタクサ、ヨモギ花粉症、近年OAS(口腔アレルギー症候群)の原因として注目を集めているカバノキ科花粉(シラカンバ、ハンノキなど)があり、季節や地域によって原因となるアレルゲンは異なってきますので、どの花粉によって症状が出ているのか診断することが重要です。
スギ花粉を代表とする木本花粉症は、花粉が遠くから風に乗って運ばれてきますが、草木花粉が飛ぶ距離は1キロメートル程度と考えられています。
ではどんな治療をすれば満足のいく効果が得られるでしょうか?以下に治療について必要な項目を解説します(図1)。
患者とのコミュニケーション・問診
花粉症の診断は毎年のように典型的な症状があり、鼻粘膜所見でアレルギー性鼻炎が疑われれば診断は容易です。
花粉症の場合はどの季節に、どこで症状が出るのか(室内か屋外か、特定の場所で症状があるのか)情報を得ることが大切です。通年性と異なり、屋外で症状が出ることが多く、草木花粉症の場合は特定の場所に近づいたときに症状が出ることもあります。イネ科やキク科(ブタクサ、ヨモギ)では公園に行ったときや河原や河川敷を散策したときに強い症状が出ることがあります。
花粉症の典型的症状はくしゃみ、水様性鼻みず、鼻詰まりですが、どの症状が最も困るのか問診することが重要です。それは病型(くしゃみや鼻みずが困るタイプと鼻詰まりが困るタイプ)によって薬物療法や手術療法の適応が変わってくるからです。
花粉の除去・回避
どんな治療をする場合でも、まず原因となる花粉をできるだけ吸い込まないようにすることが大切です。それのためにはマスクやメガネをすることで鼻腔内や結膜に入ってくる花粉を減らす工夫をすべきです。またスギ花粉症の場合には新聞やテレビでも花粉情報を得ることが出来ますが、花粉の多い日(スギ花粉症の場合には3月上旬から中旬の晴れた日、雨の日の翌日)や時間帯(気温の上がる日中)には、十分な対策が必要です。天気予報で小雨なら折り畳み傘、大雨ならレインコートや長靴の準備をするのと同様に、花粉が少ないか多いかによって対応を調整するのが良いと思います。ガイドラインでは対策について次のようにまとめています(表1)。
薬物療法
花粉症の薬物療法では、まず初期療法から始めます。即効性のある第2世代抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬は症状が少し出始めたタイミングで始めれば十分な効果が得られます。それ以外の薬剤は花粉飛散日の1-2週間前から症状なくても予め使い始めるのが良いでしょう。
ガイドラインでは重症度と病型によって薬剤の選択を推奨しています。花粉症治療のために様々な薬剤(多くは受容体拮抗薬)がありますが、軽症なら1剤を使用し、重症になれば2剤、3剤を併用するという考え方が一般的です。国内の報告を見ると最も多い併用療法の処方例は、第2世代抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬の組み合わせです。この2剤をベースと考え、さらにひどくなれば3剤目を追加するという方法で対応するのがよいでしょう(表2)。
このときに重要なのは、病型を考慮するという点です。特に鼻詰まりが困る症例には抗ロイコトリエン薬や抗ヒスタミン薬・血管収縮薬の合剤を早い段階で積極的に使用すべきです。ステロイド薬内服は推奨されておらず、重症の場合でも1週間に限って使用すべきです。点鼻血管収縮薬はOTC医薬品としても簡単に入手できますが、長期連用によって薬剤性鼻炎(鼻粘膜腫脹の増悪)をまねき、かえって鼻詰まりをひどくなる可能性もあるので短期間に限って使用すべき薬剤です。
以上のような一般的な薬物療法を行ってもなお重症、最重症のスギ花粉症には、抗IgE抗体を選択できるようになりました。喘息や特発性蕁麻疹には以前から使用されていた薬剤ですが、鼻炎では世界に先駆けて適応が認められました。使用にあたっては他の生物学的製剤と同様に最適使用推進ガイドラインに基づいて、基準にあった症例にしか使用できないことに注意しなければなりません。
手術療法
手術療法は外来で実施できるレーザー手術から、入院して実施する鼻腔形態改善手術があり、原則的には保存的治療でコントロールできない症例に選択します。レーザー手術のように外来で可能な方法では、保存的治療の後ではなく最初から選択する場合もあります。
アレルゲン免疫療法
アレルゲン免疫療法は治癒を期待できる唯一の治療法と考えられています。これまでは皮下注射でしか治療できませんでしたが、2014年からは舌下免疫療法がスギ花粉症に対して使用できるようになりました。治療期間が3年から5年と長期間かかること、毎日舌下投与する必要があることなどから、アドヒアランスを維持できるかどうか治療開始時に確認することがポイントです。スギ花粉症の場合1シーズン目からプラセボに比べ約30%症状薬物スコアを減少させ、3年目には45%程度も減少させる効果があります。また、3シーズンの治療終了後にも2年間は効果が持続することが確かめられました。治療に手間はかかりますが、確実に効果が得られる治療法と考えてよいでしょう。いまのところ、ダニとスギ花粉症しか治療薬がありませんが、海外で市販されているイネ科やブタクサ、シラカンバなどの舌下免疫療法治療薬が国内でも使用できるようになることが期待されています。
CAIへの期待
典型的な花粉症の場合には診断は容易なため、何が原因なのか検査せず、臨床症状のみで治療をしているケースが多く見られます。治療に反応する場合はそれでも問題はありませんが、薬物療法の無効例や鼻詰まりがひどい症例は、鼻鏡検査や鼻腔ファイバースコープ検査を実施して、副鼻腔炎や鼻中隔湾曲症、鼻腔腫瘍の鑑別診断を行う必要があります。
どの治療においては花粉の除去や回避を同時並行で行うべきです。除去・回避も行いながら、適切な薬物療法やアレルゲン免疫療法を行います。花粉シーズンには花粉が多い地域でのレジャー、旅行などは控えるべきです。例えば、ゴルフ場で1日プレーした後に症状が悪化するケースが多く見られます。
花粉症シーズン中は、天候によって飛散数が変化し、一定数の花粉に曝露されているわけではありません。少量飛散日が続くと自分は治ったと勘違いしてしまい、薬物療法を中断してしまうことがありますので、決められた通りに内服や点鼻を継続するように指導してください。鼻噴霧用ステロイド薬は効果が強く、安全性も高い治療薬です。しかし患者心理として、ステロイド薬は副作用があるとか、ひどいときだけ使用すれば良いという誤った認識を持っていることをよく経験します。即効性はなく定期的に使ってはじめて有効性が安定する薬剤ですので、喘息の吸入ステロイドと同じように決められた通り点鼻しているか確認してください。
舌下免疫療法では全身性副反応はほとんど発生しませんが、原因アレルゲンを投与しているので慎重さも大切です。体調の悪い時や旅行などの環境の変化があるときなどは無理に投与しなくても構いません。数日間投与できなかったときは、同量から再開できます。1ヶ月以上中断して再開するときは医師へ相談すべきです。ほとんどの局所副反応は治療開始後1か月以内に多いようです。言い換えれば1ヶ月過ぎれば、その後は安全に治療できると考えても良いでしょう。舌下免疫療法は花粉飛散中にも継続しますが、花粉の飛んでいない時期にアドヒアランスが低下する傾向があります。1年を通じて治療を安全に継続できているか何度も確認するのが大切です。
以上のような点について患者指導にあって頂けると幸いです。